このごろ、近くに出来たお洒落な喫茶店。
開店間もないというのに、すごい人気だそうで。女中さんは興奮気味に言った。
「私も先週行ったのよ!もう本当に美味しいの!おすすめはやっぱり王道ショートケーキ。あのふわふわな生地とエレガントなクリームがたまらなくて!」
「本当ですか!ケーキ大好物っ。いいなあ!」
「私も行ったわよ。素敵だったよ」
聞けば聞くほど、想像が膨らむ。女中さん達みんな行った事があるらしい。早いなあ、あそこ出来て何日かしかたってないのに。さすがだ。もしかして、行ってないのって私だけ?
「いいなあ…私も行ってみたいです!」
「行ってみて!あ、でも、行く相手いるの?あのお店、デートスポットらしくてね。カップルばかりよ」
「か、カップル?」
「私達はみんな、彼氏や旦那と行ってるわよ」
女中さん達の嬉しそうな顔。そんなところに一人でなんて行きたくない、絶対。
「じゃあ、誰か友達誘います」
「誰を誘うの?」
「えっと、………………」
「…悲しいわね」
誘う友達もいないなんて、悲しすぎる…。ムサい真選組にいると、やはり友達も限られてくるからしょうがない事なのだけど。哀れみの視線を向けてくる女中さん達。ほっといてくれ。
「誰か良い人いないのかい?」
「いませんよ!そんなのいたら、こんなに返答に困りません!」
「じゃあ、好きな人は?」
「いませ………」
言いかけて、頭に浮かんだのは栗色の髪の毛。ウチの隊の、沖田隊長だ。
…いやいやいや、なんでだ!なんで沖田隊長が浮かんだんだ!あんな人、サドで憎らしくていつもいじめてくるじゃん!
「い、いませんよ!好きな人も!」
「あらら、顔赤くしちゃってー」
「若いわねェ」
「青春ねェ」
「もう!違いますって!」
そのとき、隊士が私を呼んだ。
「おい!稽古はじまるぞ!」
「はい!」
稽古はじまっちゃう。ニヤニヤした女中さん達の元から離れる。
「じゃあ、稽古いってきます。違いますからね!」
「はいはい、わかったわかった」
「頑張ってー!」
絶対わかってないな!
「あーでも、行きたいなあ…」
思わず独り言を漏らしながら、歩き出す。すると、
「おい」
「ひ!?」
女中さん達のいた部屋を出てすぐ壁側に、壁に寄りかかる沖田隊長がいた。アイマスクをずらし、じっと私を見てくる。びっくりしたーっ、なんでこんなところに隊長が!!
「なっ、なんですか!どうしてこんなところに!」
「…稽古呼びに来たんでィ。あんまり遅いから。もう始まっちまいやすぜ。もうどうせ組む相手いないんで俺と組め」
「あ、はい…って隊長と!?無理ですよ!」
「たっぷりいじめてやらァ」
ニヤッと笑う沖田隊長と歩く。
…聞こえてないよね…?さっきの会話。聞こえてたって別にいいけど、なんか恥ずかしいし。
少し沈黙した後、沖田隊長が口を開いた。
「今度の非番」
「え?」
「新しく出来た店あんだろィ。そこ、行くぞ」
「…は?」
「だから。行く相手がいねーんなら、付き合ってやるって言ってんでィ」
「…!!」
思わず立ち止まる。やっぱり聞こえてたのか!てか、あの沖田隊長が!?あの沖田隊長と!?少し開いた隊長との距離を小走りして、隊長に身を乗り出した。
「いいんですか!?」
「行かねェなら行かねェ」
「行きます行きます!…でも、なんでいきなり…沖田隊長が優しいとか、怖い」
「行かねーんだな、じゃあ一人でさみしく食べて来なせェ」
「ああっすみません!行きます!行かせてください!」
「仕方ねェな」
ありがとうございます、とにっこりすると、沖田隊長は貸し1な、と言って来た。まあいっか。
今度の非番に、沖田隊長と噂のお店へお出かけ。今から楽しみになってきた。
ちなみに、今の会話を全部女中さん達が聞いていて、後から散々からかわれた。
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